TRPG関係記録置き場

TRPGの忘備録置き場。 セッション日記とか、SSとかごったまぜ。   mixi日記やtwitterだと流れてしまうので、後々読み返す時に不便だなーと思ったので。10年後に読み返して笑いたい。

マーダーミステリー「迷いの森の殺勇者事件」隙間妄想2

マーダーミステリー「迷いの森の殺勇者事件」
 ※「マネミック」が権利を有する『マーダーミステリー「迷いの森の殺勇者事件」』の二次著作物です。
https://note.com/manemick/n/nf49cf384ee34

 

ネタバレから始まるし、下の続きです。

 

san-goo.hatenablog.com

 

 

 

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街から少し離れた森の奥に、木でできた小屋がひっそりと佇んでいた。カンカンと薪を割る音があたりに響いていて、街の方向から歩いてきた黒いローブの青年は音を聞いて頬を緩める。
「戻りました」
「おかえり」
青年は薪割りに精を出していた男に帰宅を告げる。
「今日は、パンを買ってきました。勇者が好きな……」
勇者と呼ばれた青年は汗を拭いながら、苦く笑った。
「もう勇者じゃない」
返答に少し沈黙した後、魔法使いは口角を上げた。語尾は少し震えていたかもしれない。
「勇者だって、私のことを魔法使いと呼ぶじゃないですか」
「お前は魔法使いだろ、俺とは違う」
パンを受け取り、柔らかく笑って告げながら、小屋へと足を向ける。必然、魔法使いもそれに倣うかたちになった。

パタンと木製の扉が閉まる。簡素な居間に備えられた木製のテーブルと椅子の素朴さが、二人の人となりを表すかのようだった。
勇者は受け取ったパンをテーブルに置き、魔法使いを対面に、椅子に腰を下ろした。
「……俺は、勇者にまつわる全てを捨てたから」
勇者の呟きは小さいものであった。そのことに魔法使いは立ち尽くし、俯く。
「私が、います」
「これ」
「……」
勇者が何かを取り出した気配を感じて、魔法使いは顔を上げる。見計らわれたように、白い封筒が目線の下に滑ってくる。艶のある高級紙だ。
「客が来たよ」
「客……」
「王都から」
身体が机にぶつかり、ガタと音を立てる。勇者はかぶりを振って魔法使いの推測を否定する。
「俺の追っ手じゃない。隠遁生活を送る高名な魔法使いに、能力を活かせる場を、だそうだ」
「……」
「全然知らなかった。何度も連絡をもらってたんだって?」
「……」
魔法使いは封筒をキツく睨みつける。友人に気付かれないように全て灰にしていたのに。手紙ばかりか、人まで手配されたとは。
魔法使いの動向を確認するように、勇者は少しの間沈黙した。そして、ゆっくりと口を開く。
「俺は、昔からひっそりと生きたかった」
「知っています」
魔法使いの短い返答に、勇者は小さな笑みを見せて頷いた。
「俺が死にそうなとき、挫けそうなとき、逃げ出したいとき、いつもお前が横にいて、支えてくれた。だから、あの日まで勇者でいられた」

言いながら、勇者だった男は内心で考える。ーーーーなんて幼稚な夢を見てしまったのだろう。
ひっそりと生きたい、二人で。なぜそんな子どもじみた夢を、叶えようと思ってしまったのだろう。
前途有望な友人の未来を奪うようような。


ふ、と息を吐いてから、青年は続けた。
「お前、魔法の勉強、好きだろ? いくらなんでも嫌いな魔法をあそこまで研究しないもんな。今もたまに本を読んでいるのを知っている」
「私は、貴方の役に立つために……」
「ああ。ありがとう」
全ての覚悟を決めた笑みを浮かべられて、魔法使いの胸が痛む。
「なあ、魔法使い。お前は、こんなところで燻っている人間じゃない。俺に付き合わせて悪かった」
さらに、一呼吸おいて、魔法使いの光そのものは、こう告げてきた。
学術都市に行け。魔法研究を続けるんだ」


先生を殺させて、俺に縛り付けて、隠れるように生きさせて、悪かった。
穏やかな表情で、あやすように、諭すように、告げてくる友人に、魔法使いは唇を噛む。
「私は……」
「先生は」
遮るように、友人が口を開くので、魔法使いは思わず顔を上げた。
「先生は、昔、俺に言った。お前は、俺と共と過ごすのを望んでいると。もし、仮に全てが終わっても、近くにあることを望むだろう、と」

******
先生は俺に問うた。
『お前の力の源はなんだ?』
『……いつかひっそりと暮らすという目的があるからです』
そうか、と先生は頷いた。
『魔法使いの力の源はなんだと思う?』
この問いかけに、俺は言葉を詰まらせた。
才能という理由を挙げるのは嫌だった。魔法使いは努力している。
『魔法使いには魔法の才能がある。術を研鑽するのが好きだろう』
先生は俺をじっと見て続けた。
『だが、その根底には、お前の存在がある。他ではダメだ』
『魔法使いがそう言ったんですか?』
俺の質問に、先生は微笑みとも言えないくらい、少しだけ口角を上げた。
『魔法使いが闘うのは常にお前のためだ』
『え』
『今後、わしが死ぬことがあれば、もうお前はわしに守られる必要はなくなるということでもある』
『そんな縁起でもない…』
脈らくのない禅問答のような会話だと感じ、語尾が濁る。
すると、ふいに肩を軽く叩かれ、笑われた。だから、俺はそのとき、先生の言葉を冗談だと思ったのだ。先生はこう告げてきた。
『教えた剣術を全て忘れていい。だが、お前の友人を忘れるな』
このときの先生は、かつてないほど優しかった。起こり来る何かを予見していたのだろうか。
その後、魔法使いに二人で逃げようと持ちかけられたとき、一も二もなく頷いたのは、疲れていた以上に、その会話があったからかもしれない。先生は覚悟をしている、と俺は確信したのだ。
******

「先生の言葉は本当だろうか? 一緒にいたいと思っていいか」
照れたように告げてくる友人に、魔法使いは反射的に頷いた。
そうか、と友人は頷いて、言葉を続けた。
「しゃあ、俺も、学術都市に着いていく」
え、と間抜けな声が室内に響く。
「住む場所が変わるだけだ。他人に注意を払う魔法使いは少ないから、俺に目を留めるやつは少ないだろう。何かあったら、変異の魔法をかけてくれ」
こくこくと頷く魔法使いに、勇者だった男は笑った。
「だから、もう俺を勇者と呼ぶのは止めろ」
もう勇者じゃない、と魔法使いの幼馴染は屈託ない笑みを見せた。
「ーーーー×××。なあ、お前も俺の名前を呼んでくれよ」
はい、はい、と喉を詰まらせ、それ以上の言葉を出すことができない。傍の男は、そんな幼馴染の背中をそっとさすった。